以前は、医療現場におけるコミュニケーションの難しさについてお話ししました。
今回は、私が心理士として患者さんとどのように向き合い、具体的なサポートを行ってきたかを、ある患者さんとのエピソードを交えてお話ししたいと思います。
入院中に出会った1人の患者さん
ある日、抗がん剤治療のために入院されていた患者さんの病室を訪れ、お話を伺う機会がありました。その方は、副作用への不安を抱えながらも、治療を受ける覚悟を決めた強い方でした。
しかし、外来治療に移ることへの不安を率直に打ち明けてくださいました。
「入院中は毎日医師とお話しできるけど、外来に移ったら数週間に一度、10分程度の診察しかない。その短い時間で、話したいことや聞きたいことがうまく伝えられるか心配です」と。
さらに、外来の待合室の混雑も、患者さんの心を重くしていました。「たくさんの患者さんが待っている中で、自分の診察時間を延ばすのは申し訳なくて…」と、他の方への配慮を大切にする方でもありました。
「聞きたいことリスト」の提案
そこで私は、「できるだけ日々の気づきや変化をメモにとっておきましょう」とお伝えしました。そして、そのメモをもとに診察日前日や当日に「聞きたいこと」や「伝えたい変化」を整理し、リストを作る方法をご提案しました。
また、その患者さんの「申し訳なさ」を感じるお気持ちも理解していたため、「たくさん聞けないときは、そのリストをそのまま医師にお渡しするのでも大丈夫ですよ」とお伝えしました。こうすることで、直接話せないことも医師に伝わり、診察時間を効率よく使えるだけでなく、安心感にもつながるからです。
安心感が治療への意欲につながる
次にお話しした際、患者さんは「聞きたいことリスト」を使ってみた経験を教えてくださいました。「自分の症状について、聞くほどでもないかな?と迷っていたことも、リストにしていたおかげで伝えられました。また、不安に思っていたことも話せて、先生に『大丈夫だよ』と言ってもらえたことで、本当に安心しました。」
患者さんの表情は明るく、治療を前向きに進める意欲が感じられました。「自分の気持ちや症状を伝える方法を知るだけで、こんなに心が軽くなるんですね」と話してくださり、私もとても嬉しかったのを覚えています。
誰でもできる簡単なステップ
この「聞きたいことリスト」は、特別な準備がいらず、誰でも実践できる方法です。診察の限られた時間を有効に活用しながら、自分の不安や疑問をしっかりと医療者に伝える手助けとなります。
また、「自分の気持ちや症状を伝えるのは、医療者にとっても治療の参考になる大事なこと」と考えていただければ、少しは「申し訳なさ」も和らぐかもしれません。
次回は…次回は、医療者と患者さんの「温度差」を埋めるために私が行ってきた取り組みについてお話しします。この「温度差」をどう理解し、互いに歩み寄るための方法を考えていきます。ぜひお読みください!